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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)123号 判決

神奈川県川崎市中原区上小田中1015番地

原告

富士通株式会社

代表者代表取締役

関澤義

訴訟代理人弁理士

井桁貞一

林恒德

松岡宏四郎

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

井上雅夫

飛鳥井春雄

奥村寿一

長澤正夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成1年審判第6814号事件について、平成2年3月8日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和55年11月11日、名称を「電子ビーム露光方法」とする発明(以下、「本願発明」という。)につき、特許出願をした(昭和55年特許願第158439号)が、昭和63年12月19日に拒絶査定を受けたので、平成1年4月27日、これに対し審判を請求した。

特許庁は、同請求を平成1年審判第6814号事件として審理したうえ、平成2年3月8日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月8日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

「島状の四角形のパターンであって可変矩形電子ビームの最大矩形サイズより大きな露光パターンを露光する際に、

該露光パターンの縦と横の長さを前記可変矩形電子ビームの最大矩形サイズで除して切り上げることにより最小の分割数を求め、

該露光パターンを最小の分割数で等分割するように、矩形電子ビームの形状を変化させ、

該変化して形成した等分割形状の矩形電子ビームで前記露光パターンを繰り返し露光することを特徴とする電子ビームの露光方法」

3  審決の理由

審決は、別紙審決書写しに記載のとおり、本願発明の出願前に我が国において頒布された昭和55年度精機学会秋季大会学術講演会講演論文集第1分冊283ないし285頁の「可変成形電子ビームリソグラフィでの図形分割法」の記載(以下「引用例」という。)を引用し、本願発明は、引用例に開示された以下の4つの技術事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項により特許を受けることができないと判断した。

「各ショットで用いる描画単位図形は、まず輪郭図形を矩形などの基本図形に粗分割し(以下「第1の技術事項」という。)、さらにこの基本図形を一辺長がビームの最大辺寸法lよりも小さい矩形に規則的に細分割して得られる(以下「第2の技術事項」という。)。」、「描画単位図形の面積が大きく変化すると、それらの図形が接続する部分で電荷分布が不均一となり、パタンの切断が生じやすくなる。これを解決するためには、使用する描画単位図形の面積を均一化すればよい(以下「第3の技術事項」という。)。」及び「描画単位図形数が不用意に増加しないこと(以下「第4の技術事項」という。)」

第3  原告主張の審決取消事由

審決の引用例記載の第1ないし第4の技術事項の認定及び本願発明と引用例の一致点の認定は認める。しかしながら、本件審決は、以下のとおり、本願発明と引用例との相違点の認定を誤り(取消事由1)、本願発明の進歩性についての判断を誤り(取消事由2)、本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取消しを免れない。

1  本願発明と引用例の相違点の認定の誤り(取消事由1)

(1)  引用例は、輪郭図形を基本図形に粗分割する場合の図形分割方法を問題としているのに対し、本願発明は、そのようにして分割された基本図形をさらに描画単位図形に細分割する方法のみを問題にしている。したがって、本願発明の「島状の四角形のパターン」とは、引用例の第2の技術事項における「輪郭図形を粗分割して得た矩形などの基本図形」に相当する。しかるに、審決は、「本願発明の分割は、島状の四角形の露光パターンに対する分割であり、引用例の第2の技術事項の分割は、輪郭図形を粗分割して得た矩形などの基本図形に対する分割である」とし、上記相違点を正しく認定しなかった。

(2)  本願発明は、特許請求の範囲に「可変矩形電子ビームの最大矩形サイズより大きな露光パターン」の露光方法とあるとおり、可変電子ビームの縦及び横の最大寸法Sよりも露光パターンである島状の四角形の縦及び横の寸法がいずれも大きい場合の露光方法のみを対象としているのに対し、引用例の問題としている技術事項は、可変電子ビームの最大辺寸法lよりも縦又は横のいずれかの一辺長のみが大きい露光パターンを対象とするものである。しかるに、審決は、本願発明における「最大矩形サイズ」を「最大寸法Sより大きい場合」と解釈した結果、本願発明が対象としていない引用例記載の露光パターンを含むものとし、対象とする露光パターンについての両発明の相違点を看過した。

2  本願発明の進歩性判断の誤り(取消事由2)

(1)  上記のとおり、引用例の第4の技術事項は輪郭図形を基本図形に粗分割する方法であり、「基本図形を切りとるときの切断長や基本図形の各辺長をlと比較し、描画単位図形数が不用意に増加しないこと」(甲第4号証284頁5~7行)と説明されているにすぎず、引用例にはlの長さ自体について「一辺長がビームの最大辺寸法」と記載されているのみで、ビームの形状すら示されていないから、輪郭図形のどの部分をlとどのように比較して粗分割するかについての具体的手段も当然のことながら何ら示されていない。したがって、第4の技術事項は基本図形をさらに細分割するときに適用しうるようなものではなく、引用例の同技術事項を基本図形の細分割に適用することは当業者に容易であるとする本件審決の認定は誤りである。

(2)  本願発明が露光パターンの縦と横の寸法を電子ビームの最大矩形サイズと関連付けて、同一形状、同一面積の描画単位に細分する具体的方法を提供するのに対し、引用例記載の第2の技術事項は、矩形を一定の順序で小さくするか大きくするか、又は一定の間隔ごとに同じ大きさにするか等規則的になっていることを示しているにすぎず、第3の技術事項は、縦横の長さに関係なしに面積を等しくし、その場合矩形の一辺の長さは短くないことが望ましいと説明しているにすぎず、この記載以外に面積の均一化について、同一形状、同一面積でなければならないとの説明はない。

また、引用例の第2、第3の各技術事項は、それぞれ独立の技術事項であって、相互に関連した系統的技術事項ではない。さらに、第4の技術事項は前記のとおり、基本図形を細分割するための方法ではないから、これを細分割において考慮することは許されない。

したがって、これらの独立した各技術事項を独立の文脈中から取り上げた上、引用例には、これらが系統的総合的技術事項として開示されていると解釈することは許されない。

しかるに、審決は、これらの技術事項が系統的・総合的に開示されているとの誤った前提に立ち、考慮することが許されない第4の技術事項をも考慮し、何ら具体的法則性が示されていないこれらの抽象的技術事項の結合から、本願発明の分割方法を想到することは当業者にとって容易であり、この点に特段の発明力を要しない旨誤った判断をした。

(3)  本願発明における「島状の四角形の露光パターン」とは、引用例の第2の技術事項における「輪郭図形を粗分割して得た矩形などの基本図形」に相当することが明らかな以上、「露光すべきパターンを粗分割した矩形などの基本図形に対する分割方法を島状の四角形の露光に適用することは当業者にとって格別困難なこととはいえない」とした審決の認定は、何らの意味を有するものではなく、誤りである。

第4  被告の反論

審決の認定判断は相当であり、原告主張の取消事由は、いずれも理由がない。

1  取消事由1について

引用例の図形分割方法は、輪郭図形を粗分割する方法のみを問題としているものではなく、従来技術と同様、粗分割した後、細分割する方法をも問題としていることは、引用例の記載自体から明らかである。

また、「島状の四角形」とは、周囲から区分され、周囲とは無関係な四角形の露光パターンを意味し、その内部は露光されるが、周囲は露光されない独立の区画を指すものと解すべきところ、引用例記載の基本図形は、他の基本図形と連続しており、「島状」の四角形と呼ぶにはふさわしくないから、審決が、本願発明は島状の四角形の露光パターンに対する分割であるのに対し、引用例の第2の技術事項の分割が輪郭図形を粗分割して得た矩形などの基本図形に対する分割である点で相違すると認定したのは相当である。

本願発明の「可変矩形電子ビームの最大矩形サイズより大きな露光パターン」を「露光パターンの縦及び横のいずれもが可変電子ビームの最大寸法よりも大きな露光パターン」を意味するものと解することはできず、本願の露光パターンは、引用例にいう「可変矩形電子ビームの最大辺寸法lより大きな露光パターン」と同一である。本願公開特許公報にも、NX=1又はNY=1の場合、すなわち縦又は横の一方のみが可変電子ビームの矩形サイズより大きい場合を排除することが記載されておらず、その示唆もないから、審決の認定に原告主張の誤りは存しない。

2  取消事由2について

(1)  審決は、引用例の第4の技術事項が輪郭図形を粗分割するときの方針の一つであることを正しく理解した上で、同技術事項が「基本図形を切り取るときの切断長や基本図形の各辺長をlと比較し、『描画単位図形数が不用意に増加しないこと』・・・を方針とした新たなアルゴリズムを開発した。」という記載の一部であることから、第4の技術事項は、基本図形から描画単位図形への細分割にも適用できるものであり、これが当業者にとって格別困難であるとはいえない旨判断したものである。

右判断に原告主張の誤りはない。

(2)  上記のとおり、引用例記載の第4の技術事項が基本図形を細分割する際にも適用可能であり、これと第2、第3の技術事項を結合すれば、露光パターンの縦辺及び横辺をそれぞれ可変電子ビームの最大寸法で割り、余りを切り上げることによって最小の分割数を求めることができ、その分割数を用いて均一な面積で規則的に分割することは、自然法則や高度の数学知識を利用するまでもなく、簡単な図形と割算の知識によって容易に想到することができる。

したがって、本願発明は格別な創意工夫を要することなく当業者が容易に想到し得ることであって、この点に特段の発明力を要したとすることはできない。

(3)  本願発明の「島状の四角形の露光パターン」と引用例の「基本図形」とは、いずれも実際に露光を行う描画単位に分割する一段階前のパターンである点で共通するが、前記のとおり同一のものではない。

両者が同一のものでない以上、一方における技術事項を他方に適用することについて進歩性判断を行った審決に誤りはない。

第5  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1について

(1)  原告は、本願発明の分割の対象である「島状の四角形」と、引用例の輪郭図形を粗分割した基本図形とは同一のものであるのに、審決は、この点を誤って認定したと主張する。

甲第4号証によると、引用例における「基本図形」とは、描画単位図形に細分割する前段階の矩形などの図形であることが認められ、個々の図形に着目するかぎり、本願発明の「島状の四角形」に対応することは明らかである。

そして、基本図形の描画単位図形への分割方法においては、個々の基本図形ないし島状の四角形に着目したうえ、これを所定の方法で分割すればよく、基本図形ないし島状の四角形が他と接しているか否かは問うところではないから、引用例の第2の技術事項に係る分割も、本願発明の島状の四角形の露光パターンに対する分割も、その対象とするところは同一であり、この点を引用例と本願発明の分割方法における差異として取り上げる必要は全くなく、これを相違点と認定した審決は誤りであるといわなければならない。

しかしながら、このことは、本願発明の分割方法が引用例の第2ないし第4の技術事項と一部同一であることを裏付けるものであり、結局のところ、審決の上記誤認は、いかなる意味においても審決の結論の当否に影響を及ぼさないものといわなければならない。

この点を審決の取消事由とする原告の主張は理由がない。

(2)  原告は、本願発明が、電子ビームの最大矩形サイズすなわち電子ビームの最大辺長よりも縦、横ともに大きい露光パターンすなわち面積も最大矩形面積よりも大きいもののみを問題としているのに対し、引用例においては縦又は横のいずれか一方のみが電子ビームの最大辺長よりも大きい場合を問題としており、本件審決はこの点の相違点を看過していると主張する。

しかしながら、本願発明の特許請求の範囲にいう「可変矩形電子ビームの最大矩形サイズより大きな露光パターン」が原告主張のようなもののみを指すことをこの記載部分自体から一義的に断定することはできない。

かえって、甲第2、第3号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、矩形電子ビームを用い、パターンを分割して露光する電子ビーム露光方法に関する。矩形電子ビームを用いてデータパターンを露光する場合、最大矩形サイズより大きい露光パターンは分割して露光する。」(甲第2号証1欄11~15行)として、本願発明の適用される電子ビーム露光方法一般について説明し、これに続けて「例えば矩形電子ビームの最大なものは5μmの正方形である場合、データパターンの横×縦が6μm×7μm(以下、これを6×7μmと表示する。)〔と〕すると、矩形電子ビーム1ショットでは全データパターンを照射することができない。」(同15~20行)として、矩形電子ビーム1ショットでは全データパターンを照射することができない例を説明している。この例ではデータパターンの横、縦各辺の寸法がいずれも矩形電子ビームの各辺の寸法5μmより長い6×7μmのものが取り上げられているが、各辺いずれか一方の寸法が長いデータパターン、例えば6×3μm等の場合も、分割して露光することが必要なことは明らかであり、この場合を上記本願発明の対象である「矩形電子ビームを用い、パターンを分割して露光する」ことから除外すべき説明は本願明細書に何ら記載されていない。そして、本願発明の具体的分割方法として特許請求の範囲に規定された「該露光パターンの縦と横の長さを前記可変矩形電子ビームの最大矩形サイズで除して切り上げることにより最小の分割数を求め」を数式化したパターンサイズX1、Y1、ショット繰り返し数NX、NYについては、いずれもこれを限定するところがないことが明らかである。そうすると、本願発明は、X1、Y1の値が電子ビームの最大矩形寸法Sよりもいずれも大きい場合、すなわち、NX、NYの値がいずれも2以上の場合に限定されるものと解することはできず、特許請求の範囲に記載された「可変矩形電子ビームの最大矩形サイズより大きな露光パターン」とは、1回の露光によっては照射することのできない形状の露光パターン、すなわち電子ビームの最大辺長よりも縦又は横の少なくとも一方が長い露光パターンを意味するものと解すべきである。

したがって、分割対象とする露光パターンの縦又は横の長さと可変電子ビームの寸法関係については、本願発明と引用例との間に差異はない。

この点に関する原告の主張は理由がない。

2  取消事由2について

(1)  原告は、引用例の第4の技術事項は、前後の文脈から判断して、輪郭図形を基本図形に粗分割するときの技術事項であって、これを基本図形を細分割する際に適用することはできない旨主張する。

しかしながら、甲第4号証により引用例を見ると、第4の技術事項すなわち描画単位図形数を不用意に増加させないとの方針は、「従来報告されている分割法では、この粗分割にlが考慮されておらず、描画単位図形数の増加を招き生産性の点で問題があった。」(同号証283頁本文22~24行)のほか、新分割法として示された「〈1〉基本図形を切りとるときの切断長や基本図形の各辺長をlと比較し、描画単位図形数が不用意に増加しないこと・・・を方針とした新たなアルゴリズムを開発した」(同284頁5~11行)との記載から、基本図形を描画単位図形に細分割するときの技術事項としても開示されていることが明らかである。

この点に関する原告の主張は採用できない。

(2)  原告は、引用例の第2ないし第4の技術事項は独立のものであって、これらを総合的に考慮することは許されないと主張するが、引用例には各技術事項を独立のものとしてこれらを総合することが許容されないとの記載ないし示唆は存在しないほか、電子ビームの最大辺寸法lと露光パターンの縦横の各辺長との比較及び描画単位図形数の不用意な増加を防ぐとの各技術思想は、これらの技術課題が輪郭図形の基本図形への粗分割においてのみならず、基本図形の描画単位図形への細分割においても適用されるべきものとして開示されていること上記のとおりであって、引用例の提供するアルゴリズムが各技術事項を総合したものであることは、その記載自体から疑う余地がない。

そして、甲第4号証により認められる引用例の記載によれば、引用例は、輪郭図形から基本図形への粗分割において、あらかじめビームの最大辺寸法lを考慮して描画単位図形数の増加につながらないような粗分割をするとともに、この基本図形を一辺長がビームの最大辺寸法lよりも短い矩形に規則的に細分割するに当たり、照射パターンのダレを防止するため、描画単位図形の面積の均一化を図り、かつ、その短辺として許容できる長さを導入し、一辺長がこの許容できる長さに足りない短いものとなるような描画単位図形の発生を防止することを内容とする新たな分割方法を提供するものであることが認められる。

この引用例の開示する方法に従い、基本図形から描画単位図形へ細分割するに当たり、描画単位図形数を不用意に増加させないこと、面積の均一化を図ること、一辺長の長さをビームの最大辺寸法lより短いが、それが短辺として許容できる長さ以上とすることの要請を満足させるとすると、基本図形を最小の分割数で分割すべきであり、そのためには基本図形の縦横各辺の分割数をそれぞれ最小にすればよいことは明らかである。そして、各辺の最小の分割数を得るためには、各辺の長さを電子ビームの最大辺寸法で除して切り上げれば足りることは、特段の専門的知識を要せず、当業者にとって自明のことがらであると認められる。

すなわち、引用例は、基本図形に対する分割方法において、本願発明と同様の具体的分割方法を示していることに帰着すると認められる。この具体的分割方法に基づいて、「該露光パターンを最小の分割数で等分割するように、矩形電子ビームの形状を変化させ、該変化して形成した等分割形状の矩形電子ビームで前記露光パターンを繰り返し露光すること」は、可変矩形電子ビームの露光方法における通常の手段であることは、引用例及び本願明細書の記載に照らし明らかであるから、本願発明は、引用例の記載に基づいて、当業者が容易に発明できたものと認められ、これと同旨の審決の判断は相当である。

(3)  原告は、本願発明の「島状の四角形」は、引用例における基本図形に相当するから、後者における技術事項を前者に適用することの進歩性判断は無意味である旨主張する。

なるほど、本願発明の島状の四角形が引用例の基本図形に対応することは前記のとおりであって、この点の審決の判断は無用のものというべきである。

しかしながら、審決は、同一であるものを相違点とする誤った認定に基づき、無用な進歩性判断をしたというにすぎず、この判断の有無は審決の結論の当否に影響を及ぼさないことは、前提たる相違点認定におけると同様である。

原告の主張は理由がない。

3  以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、他に審決を取り消すべき事由は見当たらない。

よって、原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 三代川俊一郎 裁判官 木本洋子)

平成1年審判第6814号

審決

神奈川県川崎市中原区上小田中1015番地

請求人 富士通株式会社

東京都千代田区麹町6丁目1番18号 麹町共栄ビル6F

代理人弁理士 大菅義之

東京都新宿区新宿1丁目31番3-808号 久木元特許事務所

代理人弁理士 久木元彰

昭和55年 特許願 第158439号「電子ビーム露光方法」拒絶査定に対する審判事件(昭和62年 6月29日出願公告、特公昭62-29893)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和55年11月11日の出願であって、その発明の要旨は、出願公告された明細書と図面および特許法第17条の3第1項の規定により平成元年5月26日付けで提出された手続補正書の記載からみて、特許請求の範囲に記載され とおりの、

「島状の四角形のパターンであって可変矩形電子ビームの最大矩形サイズより大きな露光パターンを露光する際に、

該露光パターンの縦と横の長さを前記可変矩形電子ビームの最大矩形サイズで除して切り上げることにより最小の分割数を求め、

該露光パターンを最小の分割数で等分割するように、矩形電子ビームの形状を変化させ、

該変化して形成した等分割形状の矩形電子ビームで前記露光パターンを繰り返し露光することを特徴とする電子ビーム露光方法。」

にあるものと認める。

一方、原査定の拒絶理由である特許異議の決定の理由に引用された、特許異議申立人日本電子株式会社が提出した甲第1号証の昭和55年度精機学会秋季大会学術講演会講演論文集第1冊分(昭和55年9月5日発行)の第283頁~第285頁(以下、引用例という)は、可変成形電子ビームリソグラフィに関するものであり、第283頁下から17行~16行に、「各ショットで用いる描画単位図形は、まず輪郭図形を矩形などの基本図形に粗分割し(以下、第1の技術事項という)」同頁下から16行~14行に、「さらにこの基本図形を一辺長がビームの最大寸法lよりも小さい矩形に規則的に細分割しして得られる(以下、第2の技術事項という)」と記載されている。また、引用例には、第283頁下から5行~1行に、「描画単位図形の面積が大きく変化すると、それらの図形が接続する部分で電荷分布が不均一となり(図2c)、パタンの切断が生じやすくなる。これを解決するためには、使用する描画単位図形の面積を均一化すれば良い(以下、第3の技術事項という)」、第284頁第6行~第7行に、「描画単位図形数が不用意に増加しないこと(以下、第4の技術事項という)」、および、第283頁第14行~第15行に、「可変成形ビーム方式では同じパタンを創製する場合であっても、パタンの分割法によつてショット数を少なくすればそれだけ生産性は向上する。」と記載されてい 。

そこで、本願発明と引用例の第2の技術事項とを比較すると、両者は、矩形のパターンを細分割し、該分割された矩形を矩形電子ビームで露光する電子ビーム露光方法である点で一致しているが、本願発明の分割は、島状の四角形の露光パターンに対する分割であり、露光パターンの縦と横の長さを可変矩形電子ビームの最大矩形サイズで除して切り上げることにより最小の分割数を求め、該露光パターンを最小の分割数で等分割するのに対して、引用例の第2の技術事項の分割は、輪郭図形を粗分割して得た矩形左どの基本図形に対する分割であり、規則的に細分割するものである点で、両者は相違している。

よって、上記相違点について以下検討する。

引用例には、描画単位図形数を不用意に増加させない旨記載されており(第4の技術事項)、このようにするのは引用例の第283頁第14行~第15行に記載されているように、ショット数を少なくすればそれだけ生産性が向上するからであることは明らかである。そして、前記第4の技術事項は、輪郭図形を基本図形に分割する(第1の技術事項)ときの方針の一つではあるが、この描画単位図形数を不用意に増加させないという方針を、引用例の第2の技術事項である基本図形を規則的に細分化する時にも適用できることは当業者にとって明らかである。そして、引用例に記載された描画単位図形の面積の均一化(第3の技術事項)を考慮した上で、描画単位図形数を不用意に増加させないという前記方針(第4の技術事項)のもとで基本図形を規則的に細分化する(第2の技術事項)時に、露光パターンの縦と横の長さを可変矩形電子ビームの最大矩形サイズで除して切り上げることにより最小の分割数を求め、該露光パターンを最小の分割数で分割するように、矩形電子ビームの形状を変化させることは、格別な創意工夫を要することなく当業者が容易に想到し得たことであって、この点に特段の発明力を要したとすることはできない。また、露光すべきパターンを組分割した矩形などの基本図形に対する分割技術を島状の四角形の露光に適用することは、当業者にとって格別困難なこととはいえない。

したがって、本願発明は、引用例に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成2年3月8日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

平成4年(行ケ)第195号審決取消請求事件

判決

広島県大竹市港町1丁目5番1号

原告 中川製袋化工株式会社

代表者代表取締役 中川兼太郎

東京都台東区東上野1丁目11番12号

原告 櫻井株式会社

東京都豊島区巣鴨1丁目3番23号

両名訴訟代理人弁理士 松田喬

東京都千代田区内神田2丁目5番6号

被告 株式会社サン・プランニング

代表者代表取締役 吉田知明

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は、弁理士松田喬の負担とする。

事実及び理由

弁理士松田喬は、原告両名訴訟代理人として、「特許庁が平成2年審判第8776号事件について平成4年7月16日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める本件審決取消訴訟を提起したが、原告代表者両名の資格を証する書面及び同弁理士について原告両名訴訟代理人としての代理権を証する書面を提出しないため、当裁判所は、同弁理士に対し、補正命令送達の日から14日以内に上記各書面の提出を命ずる旨の平成4年10月27日付け補正命令を発し、この命令は、同月29日、同弁理士に送達されたことは記録上明らかである。

しかるに、同弁理士は、前記補正期間経過後も上記各書面を提出しないから、本件訴えは不適法な訴えであって、その欠缺は、補正することができないものと認めるのが相当である。

よって、本件訴えを却下することとし、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法202条、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法98条、99条を適用して主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第18民事部

裁判長裁判官 松野嘉貞

裁判官 濱崎浩一

裁判官 田中信義

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